Blockstreamアップデート:2024年の振り返り
- yutaro stacksats
- 1月29日
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更新日:4月13日

前回のアップデート以来、さまざまな出来事がありました。2024年、私たちは引き続き「ビットコインを進化させる」というミッションのもと、製品群全体にわたって多くの改善とアップグレードを行いました。これには、レイヤー2技術スタックであるCore LightningとLiquidの新たなアップグレード、Blockstreamのウォレット製品GreenおよびJadeの進化、そして応用研究部門による画期的な開発が含まれます。
ここでは、ビットコインを基盤とする経済のためのインフラ構築における、私たちの1年間の進捗を振り返ります。
Core Lightning:4回のメジャーアップデート
2024年は、Core Lightning(CLN)にとって転換点となる年でした。年間を通じて4回のメジャーアップデートが行われ、ノード運用者とエンドユーザーの双方にとって、機能強化・パフォーマンス改善・信頼性向上が実現されました。
なかでも注目されたのは、待望されていたデュアルファンディングの統合です。これは、チャネルを共同で開設できる機能で、信頼に対する要求を軽減し、流動性管理を改善します。今後のスプライシング(チャネル容量の動的変更)といった新機能の土台にもなっています。また、進化を続けるreneplayプラグインは、高度なマルチパートペイメントのルーティングを可能にし、流動性と成功確率に基づいて最適な送金経路を選定します。これにより、Lightningネットワーク上の送金はより速く、より確実になり、ユーザー体験も大きく向上しました。
さらに、2024年にはBOLT12が正式に標準機能として実装されました。2017年以来初のLightning仕様への新BOLT追加であるBOLT12は、インボイスの管理を簡素化し、ブラインドパスによるプライバシー保護や自己支払いなどの機能を通じて、Lightningのユースケースを大きく広げました。9月のLightning Spec Summitでの反響からも、この進展の重要性がうかがえます。
パフォーマンスと信頼性の面でも多くの改善がありました。ブロック処理速度は50%向上し、ノード起動時間が大幅に短縮。また、ゴシップ同期の最適化やリカバリープラグインの導入により、データ損失からの復旧がより迅速に。autocleanプラグインのアップデートにより、大規模なチャネルを扱うノードの運用もさらに安定し、スケーラビリティが向上しました。
開発者向けにも多くの機能追加が行われ、Core Lightningの使いやすさと拡張性が強化されました。たとえば、49の新コマンドを含むgRPCインターフェースの拡充により、より高度なノード制御や統合が可能に。また、ドキュメントは自動生成の例やスキーマが加わり、新規開発者のオンボーディングも効率化されました。インボイス制御を細かく設定できるルーン制限機能や、WebSocket経由で安全にブラウザアプリと接続できるプロキシの導入などにより、さらなる開発の可能性が広がっています。
Greenlight:導入数が20倍に拡大
Greenlight(BlockstreamのLightning-as-a-Service:LaaS)プラットフォームは、2024年に大きく飛躍し、Lightning導入の簡素化とスケーリングを加速させました。
特に注目されたのは、欧州を代表するビットコインプラットフォーム「Relai」との統合です。この事例により、20万人以上の新規ユーザーがLightningネットワークに参加。これにより、Greenlightは2024年初頭に管理していたノード数が1万未満だったところから、年央には10万ノード、年末には20万ノードを超え、1年間で20倍の導入拡大を達成しました。
Greenlightはノード運用を自動化し、流動性管理を簡略化することで、Relaiにとってはユーザーへの送金速度の向上と運用コストの削減を同時に実現しました。それでいて、セルフカストディ構造により、ユーザーの資産主権を確保しています。
2024年には、エンタープライズ用途にも対応すべく、データベースの最適化、接続上限の強化、API機能の拡充など、複数のアップグレードが行われました。
2025年に入り、Greenlightは引き続きLightning経済圏の拡大に向けた中核的な存在として、開発者やビジネスに力を与え、ビットコイン決済の大衆化を支えています。
Jade:新機能とグローバル展開
2024年は、Blockstream Jadeにとって成長と革新の年となりました。機能面での大幅なアップデートが行われ、2025年に向けた新展開の土台が整いました。
Jadeにはいくつかの新機能が追加されました。たとえば、ビットコイン取引のスクリプトを柔軟かつ安全に記述できるようにする Miniscript対応 や、署名時の秘密鍵漏洩(Dark Skippy攻撃)を防ぐAnti-Exfil機能の再導入などです。
さらに、アフィリエイト報酬をサトシ建てで自動支払いする新アフィリエイトプログラムの開始や、Jadeのグローバル展開(北米・ドイツからの出荷体制)が整ったことも大きな前進です。加えて、各国での 正規販売代理店 の増加が、Jadeの人気とハードウェアウォレット市場での存在感の高まりを示しています。

さらに、2024年にはJadeシリーズの最新モデルとなる Jade Plus の最終調整が完了し、2025年1月3日に正式リリースされました。
Jade Plusは、より大きく明るいディスプレイ、改良されたカメラ、金属製の筐体、そしてJadeLinkアクセサリを使ったエアギャップ署名やファームウェア更新など、複数の強化ポイントを備えています。このJade Plusに関する詳細は、次回のアップデートで改めて紹介される予定です。
Green:UIとUXの完全リニューアル
2024年の大きな節目のひとつが、Blockstream Green 2.0のリリースでした。これは、Bitcoinデスクトップウォレット向けのユーザーインターフェースとユーザー体験を完全に刷新したもので、送金・受取・資金管理の操作をよりシンプルにすると同時に、ライブのBitcoin価格表示や現在のネットワーク手数料のスナップショットなどの新機能も追加されました。
ユーザーは、BitcoinアカウントとLiquidアカウントの両方に対応する共通のリカバリーフレーズを使えるようになり、個人の好みに応じてそれらを統合・分離する柔軟性も得られました。上級ユーザー向けには、監視専用ウォレットの分離や、ハードウェアウォレットの管理に関するオンボーディング手順の改善も行われ、Green 2.0はより多機能でアクセスしやすいセルフカストディ型ウォレットとなりました。

Greenは2024年を通じて継続的なアップデートを受けており、機能性と使いやすさの両面で強化されています。主な改善点としては、LBTCにおける手動コイン選択の導入、Jadeデバイスとの認証ワークフローの対応、期限切れの2FAコインに関する通知機能などが挙げられ、ユーザーが常に最新かつ安全な状態でウォレットを利用できるようになっています。
さらに、Green Development Kit(GDK)の定期的なアップデートにより、新しいBitcoin技術との互換性も維持されており、JadeデバイスのQRコードによるロック解除機能やアプリ内プロモーションといった新機能も追加されました。
これらのアップデートに加え、QRコード読み取り性能の向上、オンボーディングの簡略化、マルチシグ設定の追加オプションなどのパフォーマンス向上もあり、Blockstream Greenは今後もBitcoinおよびLiquidユーザーにとって最高水準のウォレット体験を提供し続けるという姿勢を明確に示しています。
Liquid:Simfonyと手数料の削減
Liquidの技術提供者として、BlockstreamはFederationのTechnology Boardとともに、Liquidの開発ロードマップの策定と実装において中心的な役割を担っています。2024年、私たちのチームはLiquidに数多くのアップデートを提供しましたが、その中でも特に注目すべきは、Liquid Wallet Kitのローンチ、LiquidテストネットでのSimplicityのリリース、そしてELIP 200の導入でした。これらの進展により、Liquidは開発しやすくなり、機関投資家や一般ユーザーにとってもより有益なものとなりました。
Liquid Wallet Kit(LWK)の導入により、開発者がLiquidの重要機能である機密性や低手数料を自身のBitcoinサービスに組み込める、強力でモジュール型のツールキットが提供されました。LWKの目標は、Liquid統合における技術的障壁を下げ、エコシステム全体で標準を確立し、Liquidの持つ強力な機能をすぐに使える形で最適化することです。
リリースから1年も経たずに、LWKはすでに目標達成に向けた成果を上げており、影響力を拡大しています。10以上のウォレットプロバイダーやSDKがこのツールを利用して、カスタマイズ可能でスケーラブルなLiquid統合を実現しています。代表例としては、Breez SDK Nodeless、Blitz Wallet、Bull Bitcoinなどがあります。

さらに注目すべき進展は、LiquidテストネットでのSimplicityとその上位言語Simfonyのリリースです。この正式な導入は、Bitcoin Scriptを超える表現力と、EthereumのEVMを凌駕する安全性の保証を兼ね備えた次世代ブロックチェーン言語の開発を目的とし、7年にわたる研究開発の成果として誕生しました。
Simplicityをより扱いやすくするため、私たちはRustに似た構文を持つ開発者向けの新しい「フロントエンド」言語Simfonyを導入しました。これにより、複雑な関数型プログラミングの知識がなくても、高度なスマートコントラクトを容易に記述できるようになり、かつセキュリティと形式的検証の能力も維持されます。
Liquidテストネット上でのSimfonyのリリースには、さまざまなユースケースを実演するサンプルプログラムを備えたWebベースのIDEも含まれており、従来のスクリプト言語では不可能だった機能も紹介されています。このIDEでは、Liquidテストネット上での公開鍵の管理やアドレス生成のためのツールも提供されており、メインネットへの導入に向けて開発者が実際に試せる環境が整っています。
また、最近ではELIP 200がメインネットに導入されました。これは、Confidential Transactions(CT)に対する手数料を最大90%削減する新たなポリシーであり、特に新興国市場において、Liquid上でのステーブルコイン決済をより手頃なものにしています。現行のBitcoin価格では、おおよそ0.03ドルの手数料で送金が可能となります。

このような個人ユーザーへのメリットに加え、ELIP 200の採用はLiquidの機関向け競争力を高め、新しい資本市場における金融プライバシー標準の普及を後押しするものです。たとえば、Mifielは、Liquidを活用してラテンアメリカ地域のグローバルな資金調達アクセスを広げつつ、従来の金融業界では標準とされるような、第三者からのセンシティブデータ保護を実現しています。これは、ブロックチェーンソリューションではまだ広く実現されていない部分です。
手数料を下げ、Confidential Transactionsを強化することで、ELIP 200はBitcoin資本市場における機関の参加をさらに後押しし、センシティブな財務情報を保護しつつ、安全かつ低コストのソリューションの実現を可能にします。
教育イニシアチブ、企業発表、カンファレンスのハイライト
2024年は、Blockstreamにとって教育活動、戦略的発表、そしてグローバルな関与という点で、さらなる節目の年となりました。
教育活動は例年通り、Bitcoinコミュニティとの関係構築および普及促進に向けた中核的な取り組みでした。たとえば2024年2月には、Bitcoin Capitalが1周年を迎えました。このバーチャル・ラウンドテーブルシリーズは、Bitfinex Securitiesと共同で立ち上げたもので、Bitcoinと伝統的金融(トラディショナルファイナンス)の交差点を探ることを目的としています。この1年間で、元Blockstreamのメンバーであり現Jan3 CEOのSamson Mow氏、Tether CEOのPaolo Ardoino氏、BitcoinアナリストのLyn Alden氏およびTuur Demeester氏、さらにAccentureのデジタル資産部門リーダーであるAlexandre Leizat氏など、業界の著名人を多数迎えてきました。
もう一つの教育的マイルストーンは、Blockstream Localの立ち上げです。この取り組みは、草の根のBitcoinミートアップを支援することを目的とし、厳選された教育コンテンツ、早期製品アクセス、持続可能な収益モデルを提供するものです。初回のワークショップでは、Liquidと高手数料環境における対策をテーマに開催され、今後はLightning、Liquid、Jadeに関する豊富なワークショップが予定されています。さらに、Blockstream Jadeなどの製品に割引価格でアクセスできるだけでなく、アフィリエイトやリセラー制度を通じて収益も得られるため、世界中のコミュニティがセルフカストディと循環型経済を推進する活動をより広く展開できるようになりました。
11月には、Blockstream Asset Management(BAM)の設立も発表されました。これは、Blockstream CEOのAdam Backと、新たに就任したCIOのSean Billによって率いられるプロジェクトです。Seanはヘッジファンド業界のベテランであり、特に年金基金業界におけるBitcoin導入の初期からの提唱者です。BAMは、Bitcoinと伝統的金融の橋渡しを目指すBlockstreamの戦略的転換点を象徴する取り組みといえます。
Seanとそのチームの伝統金融における豊富な知見と、Blockstreamの技術力(たとえばLiquidの公式技術提供者としての立場)を融合させることで、BAMはBitcoinの流動性を高め、自信をもって投資できるプロダクトを開発していきます。
これらのファンドは、Bitcoin保有者に成長と流動性の新たな機会を提供し、同時にBitcoinエコシステム全体を支えるというBlockstreamの姿勢を体現するものです。今後は、Bitcoinを現代的な投資ポートフォリオの中核に据えることを目指し、グローバルな資本市場における普及とイノベーションを加速させていきます。
最後に、2024年を通じてBlockstreamは数々の主要カンファレンスに登壇し、Bitcoinインフラとイノベーションのリーダーとしての存在感をさらに高めました。たとえば、Adam Backは、東京、台湾、ルガーノなどで開催されたカンファレンスで基調講演を行い、Liquid Federationとの連携のもと、Bitcoin・Lightning・Liquidの変革的可能性を世界に発信しました。これらのイベントは、BlockstreamがBitcoin普及の先駆者であると同時に、ブロックチェーン業界と伝統的金融界の対話を促進するハブ的な役割を果たしていることを証明しています。
今年(2025年)は、1月のPlan B El Salvadorを皮切りに、マイアミで開催される機関投資家・資産運用者向けのイベント「iConnections」など、注目のカンファレンスに連続して参加していきます。